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災害のボーダーラインとは? | 災害の芽を摘む – saigai.me

災害対策基本法

 結論から申し上げると『災害対策基本法』が1つのボーダーラインを示しています。

 災害対策基本法では『災害』を定義しています。条文は下記のとおりです。

災害
暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。

災害対策基本法 第二条 (定義)

 すなわち、これに該当しない事項は災害ではない事になります。曖昧さが残る部分は『その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害』という文言です。

【参考】災害対策基本法




目次

災害対策基本法
災害に関わる政令
定義外の災害級
パンデミック
流出事故
停電や断水
激甚災害にならない
通信障害
災害級にどう対処するのか?




災害に関わる政令

 災害対策基本法によれば非常災害対策本部長は内閣総理大臣となっています。

非常災害対策本部の長は、非常災害対策本部長とし、内閣総理大臣(内閣総理大臣に事故があるときは、そのあらかじめ指名する国務大臣)をもつて充てる。

災害対策基本法 第二十五条 非常災害対策本部の組織

 災害対策基本法第二条で示される『政令』とは『災害対策基本法施行令』を指すと思います。

【参考】災害対策基本法施行令

 ただし、『類する政令』となっているので、『類する』が『政令』に係るのであれば他にも政令があると思い、内閣府の政令を調べるとたくさんありました。100以上の中から災害に関係しそうな政令が20程度あります。

  • 災害対策基本法施行令
  • 災害救助法施行令
  • 台風常襲地帯の指定基準に関する政令
  • 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律施行令
  • 災害弔慰金の支給等に関する法律施行令
  • 活動火山対策特別措置法施行令
  • 大規模地震対策特別措置法施行令
  • 地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律施行令
  • 阪神・淡路大震災についての激甚災害の指定及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令
  • 地震防災対策特別措置法施行令
  • 被災者生活再建支援法施行令
  • 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法施行令
  • 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律施行令
  • 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法施行令
  • 東日本大震災についての激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令
  • 大規模災害からの復興に関する法律施行令
  • 首都直下地震対策特別措置法施行令
  • 原子力災害対策特別措置法施行令
  • 原子力防災会議令
  • 建国記念の日となる日を定める政令
  • 元号を改める政令
  • 内閣府本府組織令
  • 元号を改める政令
  • 位階令
  • 地方制度調査会令
  • 選挙制度審議会令
  • 衆議院議員選挙区画定審議会設置法施行令
  • 税制調査会令
  • 退職手当審査会令
  • 新技術等効果評価委員会令
  • 大臣官房公文書管理課
  • 公文書管理委員会令
  • 公文書等の管理に関する法律施行令
  • 北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律施行令
  • アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律施行令
  • 経済財政諮問会議令
  • 株式会社産業再生機構法施行令
  • 道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律施行令
  • 道州制特別区域推進本部令
  • 株式会社産業再生機構法第四十五条第一項の政令で定める割合を定める政令
  • 株式会社地域経済活性化支援機構法施行令
  • 株式会社地域経済活性化支援機構の平成三十事業年度における株式会社地域経済活性化支援機構法第四十条の割合を定める政令
  • 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律施行令
  • 民間資金等活用事業推進委員会令
  • 民間資金等活用事業推進会議令
  • 特定非営利活動促進法施行令
  • 公共施設等運営権登録令
  • 規制改革推進会議令
  • 休眠預金等活用審議会令
  • 多極分散型国土形成促進法施行令
  • 沖縄県における駐留軍用地跡地の有効かつ適切な利用の推進に関する特別措置法施行令
  • 沖縄振興特別措置法施行令
  • 沖縄振興審議会令
  • 交通安全対策基本法施行令
  • 高齢社会対策会議令
  • 障害者政策委員会令
  • 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律施行令
  • 子ども・若者育成支援推進本部令
  • 子どもの貧困対策の推進に関する法律第八条第二項第二号の子どもの貧困率等の定義を定める政令
  • 子どもの貧困対策会議令
  • 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令
  • 原子力損害賠償・廃炉等支援機構法施行令
  • 勲章制定ノ件
  • 大勲位菊花大綬章及副章製式ノ件
  • 褒章条例
  • 宝冠章及大勲位菊花章頸飾ニ関スル件
  • 勲章佩用式
  • 勲章褫奪令
  • 文化勲章令
  • 位、勲章等ノ返上ノ請願ニ関スル件
  • 男女共同参画会議令
  • 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律施行令
  • 住宅宅地債券令
  • 沖縄の復帰に伴う経済企画庁関係法令の適用の特別措置に関する政令
  • 沖縄の復帰に伴う琉球政府の権利義務の承継等に関する政令
  • 内閣府において経費の配分計画に関する事務を行う事業等を定める政令
  • 沖縄振興開発金融公庫法施行令
  • 産業労働者住宅資金融通法第七条の規定による貸付金の一戸当たりの金額の限度及び償還期間を定める政令
  • 沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法施行令
  • 沖縄科学技術大学院大学学園法の施行に伴う関係政令の整備等及び経過措置に関する政令
  • 食品安全委員会令
  • 国会等移転審議会令
  • 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第五十条第一項に規定する合議制の機関の組織及び運営の基準を定める政令
  • 公益認定等委員会令
  • 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令
  • 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律施行令
  • 東日本大震災による公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第二十一条第一項の規定による書類の作成等の義務の不履行についての免責に係る期限に関する政令
  • 再就職等監視委員会令
  • 消費者委員会令
  • 中心市街地の活性化に関する法律施行令
  • 都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域を定める政令
  • 構造改革特別区域法施行令
  • 構造改革特別区域推進本部令
  • 地域再生法施行令
  • 総合特別区域法施行令
  • 国家戦略特別区域諮問会議令
  • 国家戦略特別区域法施行令
  • 国家戦略特別区域を定める政令
  • 地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律第五条第三項の特定地域を定める政令
  • 棚田地域振興法施行令
  • 知的財産戦略本部令
  • 原子力委員会設置法施行令
  • 原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法施行令
  • 総合科学技術・イノベーション会議令
  • 日本医療研究開発機構担当室
  • 国立研究開発法人日本医療研究開発機構法施行令
  • 日本医療研究開発機構審議会令
  • 健康・医療戦略推進本部令
  • 医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律施行令
  • 宇宙開発戦略本部令
  • 内閣府設置法第四条第三項第七号の七の人工衛星等を定める政令
  • 宇宙政策委員会令
  • 人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律施行令
  • 衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律施行令
  • 内閣府設置法第四条第一項第二十四号に規定する北方地域の範囲を定める政令
  • 北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律施行令
  • 独立行政法人北方領土問題対策協会法施行令
  • 児童手当法施行令
  • 少子化社会対策会議令
  • 平成二十二年四月以降において発生が確認された口蹄疫に起因して生じた事態に対処するための手当金等についての児童手当法施行令の臨時特例に関する政令
  • 子ども・子育て会議令
  • 子ども・子育て支援法附則第十条第四項の規定に基づく保育緊急確保事業に要する費用の補助に関する政令
  • 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律施行令
  • 子ども・子育て支援法施行令
  • 総合海洋政策本部令
  • 排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する法律施行令
  • 排他的経済水域及び大陸棚に関する法律第二条第二号の海域を定める政令
  • 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律施行令
  • 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律施行令
  • 南スーダン国際平和協力隊の設置等に関する政令
  • シナイ半島国際平和協力隊の設置等に関する政令
  • 日本学術会議法施行令
  • 官民人材交流センター令




定義外の災害級

 定義がある災害は以下のようなものでした。

  • 暴風雨雪・竜巻
  • 洪水・高潮
  • 崖崩れ、土石流・地滑り
  • 地震・津波・噴火
  • その他の異常な自然現象
  • 大規模な火事若しくは爆発
  • その他(政令で定める)

 上記から外れるものは原則として災害ではなく、それを災害として捉えるか否かは個別の判断を要することになります。

 災害級の事象はいくつか考えることができます。

  • パンデミック
  • 火災や爆発を伴わない化学薬品流出・重油流出等
  • 通信障害
  • 停電
  • 断水




パンデミック

 COVID-19を経験した現世代は、感染症流行拡大の恐ろしさを語る事ができると思います。

 2020年4月には『緊急事態宣言』が発令された訳ですが、その根拠法は『新型インフルエンザ等対策特別措置法』です。

 あくまで災害ではなく、新興感染症に対する措置として一連の対応がなされてきました。

 同様に、鳥インフルエンザ等で殺処分となる場合の根拠法は『家畜伝染病予防法』です。

 いずれも自然界から受ける脅威ではありますが、定義上は災害ではありません。

【参考】新型インフルエンザ等対策特別措置法
【参考】家畜伝染病予防法




流出事故

 化学薬品や重油等が河川などに流出すれば、社会に大きなダメージを与えます。

 これが大火につながると災害対策基本法の範疇に及ぶ可能性がありますが、流出しただけでは災害ではありません。

 流出する物質によって関連法がある物と無い物があり、有害物質として明らかな物は平時の管理や調達などに法規制があります。

 適正に管理していても自然災害や交通事故等で流出してしまう事もありますので、流出してしまう人体に危害が及ぶ場合においての法律については一本化されていない部分もあり、例えば空気と水では法律が別々です。

【参考】大気汚染防止法
【参考】水質汚濁防止法
【参考】ダイオキシン類対策特別措置法
【参考】毒物及び劇物取締法
【参考】消防法
【参考】高圧ガス保安法
【参考】石油コンビナート等災害防止法




停電や断水

 停電も断水も、それ自体が災害ではありません。

 2018年に発生した『全道停電』は北海道胆振東部地震を発端に、北海道内の電力需給バランスが崩れて大規模停電に至りました。この停電は大地震との関係があったこと、全道という島全体が一斉に停電したことなどから経済産業省を中心に国レベルで対応されました。

 その2日前、関西から東海にかけて台風21号の影響で停電が発生しました。風の強い台風であったため洪水の被害は少なかったのですが、電柱が何百本も折損し大規模停電が発生しました。
 北海道の停電は300万軒に及びませんでしたが、台風21号では300万軒以上が停電しました。しかしながら停電は災害ではないという定義があるため、避難所開設もほとんどなく、報道もあまりされない中で停電は続き、停電3日目に北海道で地震があったため国民の注目も北海道へシフトしました。

 断水も同様に災害級の影響があったとしても、災害にはなりません。ダムの貯水量が減って断水が発生する事もありますし、島に渡る送水路が断裂し全島断水が発生することがあっても、災害として対応はされません。




激甚災害にならない

 激甚災害の指定には根拠法がありますが、その条文には『災害対策基本法』が出てきます。災害の定義がある事象であれば激甚災害の指定も受けやすいと思いますが、定義外の事で『激甚災害』を指定する事は容易ではないと考えられます。

 この指定を受けるか否かで、その後の対応にも差が生まれかねません。
 2018年の台風21号では関西地方を中心に甚大な被害が出ましたが、激甚災害には指定されませんでした。翌2019年に千葉などを襲った台風では激甚災害となりました。被災した家屋等への手当てに差が出ますので、その後の復旧・復興のスピードには差を感じます。

【参考】激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律
【参考】激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律施行令




通信障害

 通信障害は災害ではありません。

 銀行から預金を引き出せなくなっても、災害ではありません。

 ICT化が進み社会生活における通信の重要性は誰もが認識するところでありますが、通信網が完全遮断しても災害とはなりません。

 以前、通信会社のシステム障害で電話が使えない事が事がありましたが、その際にある自治体では広報車を走らせて『119番が使えません』とアナウンスしていました。
 私の住む地域の市役所に広報車を出すように要請しましたが、残念ながら『必要ない』という返答でした。

 電話が通じていない事に気づきもしない人が多いかもしれませんが、電話だけでなくネットもテレビもすべての通信が途絶えた時、社会の混乱は計り知れないと思います。

 通信事業者さんからの公表も比較的遅いかなと思います。
 携帯電話ショップなどではお客さんからの指摘で、現実に接続できていないことを察知して貼り紙などをしますが、通信事業者の公式サイトなどでは公表されていない事も過去にはありました。『151で問い合わせてください』と言われても、通信障害で電話が使えないので架電できない、当然ながら他社の携帯から151にかけても意味がないので、結局は謎のままになります。

【参考】総務省:重大な事故の報告

【参考】NTTドコモ:通信状況のお知らせ
【参考】ソフトバンク:障害情報
【参考】au:通称障害に関するお知らせ
【参考】KDDI:障害・メンテナンス情報
【参考】J:COM:障害・メンテナンス情報
【参考】NTT西日本:工事・故障情報
【参考】NTT東日本:工事・故障情報




災害級にどう対処するのか?

 日本国として政府が災害と定義していないにしても、災害級の被害が発生していれば対処が求められます。起きている事象に応じていくしかありません。

 念のため自治体や監督官庁のホームページを定期的に確認して、公助として何か施策が無いかチェックします。

 現実問題として公助が無いので自助や共助の中で対応していく事になりますが、町内会や自主防災組織に『災害級の事態』を伝えても動いてもらえない可能性があるため、優先されるのは自助です。

 流出事故では、被害の確定が出るまで時間がかかるので避難するにも相当な心構えが必要になりますが、自主的な水質検査などを実施して、気づかぬうちに被害者になっているという事が無いようにします。


 姑息的ですが手っ取り早いのが現実逃避です。
 目の前の問題にどう対処するかではなく、災害級の事が起こっていないエリアへ逃げてしまいます。
 停電や断水であれば、エリア外の親戚宅やホテルへ一時避難してしまいます。最長で3日の退避生活になります。
 実際、私の住むエリアが数日間停電したとき、近所の妊婦さんは停電していないエリアのビジネスホテルを探して、自費で避難されていました。119番もつながらない状態、信号も真っ黒で移動も困難な中、おそらく産科も停電しているであろう地域に居るよりも、安全な場所に退避するという素晴らしい選択をしていたと思います。




おわりに

 今回は災害級でも政府定義の災害にはならないという話題について取り上げました。

 災害でないので公助も得られない可能性についてもご紹介いたしました。

 頼れるのは自助、発災後の行動としてエリア外へ退避という姑息的手段が有効である事もご紹介いたしました。

 当然ながら、自宅を要塞化して籠城するという方法もあり得ます。そのためには備蓄が必要ですので、その備蓄についてはまた別の機会に触れたいと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。