公共交通機関では『平常通り』『時刻通り』『定刻通り』などの表現で、乱れの無い運行を伝えることがあります。
では、平常ではない状態、すなわち非常状態とは何分の遅れからなのかわからなかったので調べてみました。
鉄道
鉄道には大小200以上の事業者があります。乗降客の多そうな事業者をピックアップして調べてみました。
鉄道と軌道にはそれぞれ定義がありますが、ここでは細かい事は考えずに、遅延証明が発行される基準を調べてみました。
【参考】国土交通省:鉄軌道事業者一覧(令和3年4月1日現在)
【参考】国土交通省中国運輸局:鉄道・軌道・索道の違いは?
目次
├鉄道
├大手民鉄
├公営(普通鉄道)
├中小民鉄
├JR
├航空
├定時就航率
├5分で平常を逸脱
├『たった5分間』なのか『5分もの時間』なのか
├所要時間は不明
├ライブカメラ映像
大手民鉄
大手民鉄はほとんどが首都圏か近畿圏です。
首都圏では相互乗入が多いので、各社で足並みが揃っている印象を受けます。
鉄道会社 | 遅延定義 | 遅延証明書単位 |
東武鉄道 | 5分以上 | 10分単位に切り上げ |
西武鉄道 | 5分以上 | 10分単位に切り上げ |
京成電鉄 | 5分以上 | 5分単位に切り上げ |
京王電鉄 | 5分以上 | 5分単位に切り上げ |
小田急電鉄 | 5分以上 | |
東急電鉄 | 5分以上 | |
京浜急行電鉄 | 5分以上 | 5分単位に切り上げ |
東京地下鉄 | 5分以上 | 5分単位に切り上げ |
相模鉄道 | 10分程度以上 | |
名古屋鉄道 | 5分以上 | 5分単位に切り上げ |
近畿日本鉄道 | 5分以上 | 5分単位に切り上げて発行 61分以上は「61分以上」で発行 |
南海電気鉄道 | 5分以上 | 5分単位で発行 61分以上は「61分以上」で発行 |
京阪電気鉄道 | 5分以上 | 5分 10分(6分~10分) 15分(11分~15分) 20分(16分~20分) 30分(21分~30分) 40分(31分~40分) 50分(41分~50分) 60分以上(51分以上) |
阪急電鉄 | 5分以上 | |
阪神電気鉄道 | 5分以上 | 60分までは5分単位で発行 61分以上は「60分以上」で発行 |
西日本鉄道 | 概ね10分以上 | |
新京成電鉄 | 5分以上 | 5分単位に切り上げ |
北大阪急行電鉄 | 5分以上 | |
泉北高速鉄道 | 30分以上 | |
神戸高速鉄道 | ? | |
山陽電気鉄道 | 5分以上 |
公営(普通鉄道)
公営鉄道は大都市に走る地下鉄が中心です。
中小民鉄
中小は数が多いので、一部分だけピックアップしました。
鉄道会社 | 遅延定義 | 遅延証明書単位 |
阪堺電気軌道 | 10分以上 | 60分までは5分単位で発行 61分以上は「60分以上」で発行 |
神戸電鉄 | 5分以上 | 10分(実際の遅れ:5~10分) 20分(11~20分) 30分(21~30分) 40分(31~40分) 50分(41~50分) 60分(51~60分) 90分(61~90分) 120分(91~120分) 120分超(121分~) 終日 |
高松琴平電気鉄道 | 10分以上 | 15分単位 |
沖縄都市モノレール | 10分以上 |
JR
JRは全国各社を列挙しました。
鉄道会社 | 遅延定義 | 遅延証明書単位 |
北海道旅客鉄道 | ? | |
東日本旅客鉄道 | 5分以上 | |
東海旅客鉄道 | 5分以上 | 10分単位に切り上げ |
西日本旅客鉄道 | 5分以上 | 1分単位 |
四国旅客鉄道 | 5分超 | 10分単位に切り上げ 61分以上は一律「61分以上」 |
九州旅客鉄道 | 概ね5分超 | 6分以上30分以内は5分単位 31分以上60分以内は10分単位に切り上げ 61分以上は一律「61分以上」 |
航空
鉄道の遅延証明の発行は5~10分程度の遅れが基準となっているようですが、航空は離発着空港の滑走路の混雑状況や、天候によっても遅延が生じるため、少し基準が緩いのではないかと思って調べてみました。
定時就航率
国土交通省では、航空会社の全便数に占める出発予定時刻以降15分以内に出発した便数の割合を公表しています。
各社当然のように9割を超えています。便数の多いJALやANAでも95%超えです。
【参考】国土交通省:令和3年度 定時就航率・輸送実績に関する情報
【参考】国土交通省:航空輸送サービスに係る情報公開
5分で平常を逸脱
今の鉄道大手の常識としては5分以上は許容できない、JR四国とJR九州でも6分以上は許容できない『遅れ』であるようです。
これは鉄道会社が許さないのではなく、利用客が許さないという社会の常識の変化、新常態なのかもしれません。
1990年代、筆者が乗っていた朝の電車は、駅員さんが乗客を押し込んでやっとドアが閉まるもので、全ドアの前に大学生くらいのお兄さんが目立つジャンパーを着て立っていました。
当時は発車が遅れるのは当たり前、東京に近づくほどに人が増えて行って、どの駅でも乗車に時間がかかり、発車が遅れていました。
前の電車がホームを離れないから次の電車が手前で停車、それが数珠つなぎになって隣の駅まで続くという事も珍しくなかったです。
『たった5分間』なのか『5分もの時間』なのか
筆者の感覚では『たった5分の遅れで遅延証明書か』という感じです。5分くらいは遅れてもスケジュールに影響がないというのが自身の感覚です。
サラリーマン時代、すべて定刻で通勤できている日は、何も考えずに仕事に入れたので、それはそれで良かったと思いますが、5分くらいの遅れは気にならないほど、始業時間の1時間前には出社していたので遅延証明書は貰った試しがありません。
しかしながら世論としては『5分もの遅延』と感じる人が多いから、5分で遅延証明書が発行されているのだと思います。
確かに5分に2本以上の電車が発車するような駅では5分の遅延は大きな意味を持ちますが、一方で5分の遅延に気づかないほどの列車数で、まったく気づかずに移動してしまっている事もあります。
災害や非常事態というものを考える上で、平常でない状態というものを知る必要がありますが、社会に危害や損害を与える程のダイヤの乱れであるかどうかの基準に、遅延証明書の発行基準は使いづらいことが見えたような気がします。
所要時間は不明
遅延証明書が発行される基準は、ダイヤの乱れが基準です。
A駅を時刻表より10分遅れで出発して、終点のB駅にも時刻表より10分遅れで到着した場合、A~B駅間の所要時間には遅れがありません。
行き当たりばったりで、来た電車に乗って目的地まで移動するという人にとっては、遅延証明書は不要だと思います。
所要時間について駅員さんに聞く事があるのですが『朝の遅れの影響で時刻表通りではないが、所要時間は平常に戻ってます』なんて回答を貰うことがよくあります。
完全な『運転見合わせ』の場合は、復旧するまでの時間が不明、復旧後にどれだけの乗車率になってしまうか不明、振替輸送で用意されるバスの本数や利用者数も不明、全体として移動にかかる所要時間が不明になります。
ライブカメラ映像
駅前の混雑、帰宅困難者の多さはライブカメラでも垣間見る事ができます。
おわりに
今回は平常ダイヤの乱れの境界について取り上げました。
交通機関のダイヤの乱れは、何を基準に非常事態と捉えるべきかが難しいことがわかりました。
遅延証明書は5分程度の遅れから発行されるので、遅延証明が出るからといって非常事態としていると、対策も大変です。
一方で平日17時に電車が30分も止まっていたら、帰宅難民予備群が駅に何千人もたまり、沿線では何万人もの予備群が群衆となっているかもしれません。タクシーはつかまらない、ホテルも満室という非常事態に陥ってから対策しても、翌朝まで身動きができないままかもしれません。
ダイヤの乱れを非常事態と捉える基準については、今後も検討していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。