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暴風雨と帰宅難民 | 災害の芽を摘む – saigai.me

帰宅難民

 2018年の西日本豪雨や台風21号、2019年の台風15号や19号など大きな被害が出る暴風雨が続きました。

 建物や人的な被害があった件については新聞やテレビで大きく報道されますが、鉄道運休などは瞬間的な報道があっても、振り返りの報道は多くありません。

 その陰で、帰宅難民(帰宅困難者)が発生していたことも、あまり大きくは報道されていません。

 テレワークが普及したいま、密回避が常識となったいま、改めて帰宅難民についてフォーカスしてみます。

2019年10月・千葉県にて帰宅困難者のタクシー待ちの列(筆者撮影)



帰宅難民発生メカニズム

 単純に言えば、帰宅したい人が居て、その人が帰宅する手段を失うと帰宅難民化します。

 飲んで騒いで終電を逃した人も帰宅難民の一種ではありますが自業自得、災難かもしれませんが社会問題ではありません。

 予定していた帰宅手段を失う機序として、交通機関が予定どおりに機能しないことを要因にした場合に発生する帰宅難民は、社会で共有される課題であると言えます。




都市部では鉄道が重要

 1日に何十万や何百万人を輸送する鉄道では、乗客の実態に合わせてダイヤが組まれています。

 かつて6両編成であってものが8両、10両と長編成化し、列車間隔は5分から4分、3分と縮まって過密化しています。

 利用者がそれだけ多い鉄道では、ひとたび運休や間引き運行すると乗車できない人が発生してしまいます。

 都市部における鉄道と帰宅難民、密接な関係であると言えます。




イベント等による不平衡

 朝の出勤ラッシュは毎日同程度の乗客ですが、帰宅時間は曜日や天候などで左右されるため日によって混雑具合が異なります。

 ここに大きなイベントが重なると乗車率が限界を超えてしまい、乗車できない乗客が現れて、次の電車を待つ人が発生し、次の電車も限界、この状態が連鎖して乗車できない人が都市部に滞留することがあります。

 コロナで開催が見送られていますが花火大会が典型例で、かなり広範囲の場所で何十万人もの人が花火を観覧、最後の花火が打ち上がったあとは一斉に人が移動します。

 電車を何本見送っても乗れない、ということが起こります。




甲子園球場

 阪神甲子園球場では、阪神電鉄の職員が試合の状況を見て臨時列車のダイヤを組むというのは関西に居るとよく聞く話です。
 試合が競っていると9回裏の試合終了まで多くのお客さんが居ますし、結果が明らかな試合では7回頃に帰りだす人が多く居ます。

 筆者は甲子園球場まで車で15分くらいの所に住んでいるため電車では行きませんが、近くにあるららぽーと甲子園は阪神の試合日には駐車場が特別設定となります。
 ららぽーと(キッザニア甲子園)で遊んで帰るとき、甲子園球場の試合終了と重なると悲劇的、大渋滞に嵌ることもあります。

 試合へ向かうお客さんも多い日は短時間に集中します。大阪梅田駅には阪神のユニフォームを羽織った男女が溢れ、ホームを埋め尽くしています。

 高校野球でも『清宮シフト』が生まれたほど、人気の試合の日は始発から混雑することもあります。

【参考】阪神電車:プロ野球試合開催時に臨時列車を運転します

【参考】東洋経済:阪神・甲子園駅の野球ファン輸送は「神業」だ 試合の流れを読んで臨時のタイミングを判断 (2016年9月19日)




臨時イベント『天災』

 自然災害は予期せぬイベントです。

 地震で1時間運休するだけでも、1時間分の乗客が鬱滞しますので運行再開後の混雑は避けられません。

 1995年3月、地下鉄サリン事件が発生したときは理由はわからずも鉄道網が麻痺していました。天災ではありませんが、災害級の事件が起これば鉄道は停まります。




荒天は運休の可能性大

 かつて鉄道は、何があっても運行して、最終的にはどこかの駅で動けなくなったりして運休という末路を辿っていました。

 ここ数年、鉄道各社では『計画運休』を実施するようになりました。

 筆者は新幹線が突然の運休となったときに乗車していたことがありました。
 マイナーな駅に16両編成の新幹線が停まったとたん、1千人以上が帰宅困難者です。上下線で1本ずつでも2千~3千人が行き場を失います。

 素早い人は車内販売で弁当を買い、すぐに駅前ホテルを予約していましたが、出遅れた人は食料も宿泊先も手に入りません。
 新幹線の車両を提供してくれたので寝るには困りませんでしたが食料は自己調達なので、大変困りました。




6~9月は要注意

 日本では梅雨の季節から台風シーズンが終わる頃まで災害級の暴風雨に見舞われる恐れがあります。

 半世紀前であれば台風が主な暴風雨災害でしたが、21世紀に入り『ゲリラ豪雨』が頻発し、河川の下流では雨も降っていないのに急激に増水して巻き込まれる事故が多発しました。
 2008年にはゲリラ豪雨が流行語大賞にノミネートされトップテン入りしています。
 なお、気象庁ではゲリラ豪雨を『使用を控える用語』に分類しています。

 最近では『線状降水帯』が話題と鳴っています。
 線状降水帯とは『次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域』で、『顕著な大雨に関する気象情報』として気象庁から情報が提供されます。
 災害となってしまったものでは2020年の『令和2年7月豪雨』や2018年の『西日本豪雨』が記憶に新しいですがここ10年では1~2年に1回のペースで災害に至っており、台風と並んで警戒すべき気象になっています。

【参考】ユーキャン新語・流行語大賞 第25回 2008年

【参考】気象庁:天気予報等で用いる用語, 降水

【参考】気象庁:線状降水帯




予報精度向上で減災

 前述の線状降水帯もそうですが、新たな災害に対しては新たな予報システムが開発されます。

 地震予知は難しいですが雨の予報は年々精度が高まっています。

 その情報は災害の被害を減らす取り組みに役立てられます。

 土嚢を積み、窓を板で塞ぎ、倒れそうな木は伐採し、自動車は高台へ退避させておくといったことは昔から行われています。

 近年は鉄道各社は計画運休を発表し、それに伴い商業施設等も臨時休業を前日までに発表、学校も臨時休校となります。

 この計画運休に巻き込まれて帰宅難民となる人が少なくありません。
 前日は出勤できていたが、夜勤明けで帰ろうとしたら電車が動いていないという事態になるのですが、駅に着くまで運休を知らないという事も少なくありません。夜勤中に情報収集はしないですし、朝のニュースを見て退勤するわけでもないので仕方ないです。

 筆者が病院に勤めていた時、緊急呼び出しに対応して出勤はできたが、深夜に帰宅となりタクシーを使いました。呼出手当で1万円貰っても、タクシー代が8千円以上かかり、残ったのは1千円くらいということもありました。
 せっかく働いて、高額の自腹というのは痛手ですので、帰宅しないという選択ができると良かったと思います。

【参考】NHK:大雨もたらす「線状降水帯」 半日前めどに発表へ 気象庁(2022年5月4日)




まずは今年の帰宅難民について考える

 今年も台風や線状降水帯などによる運休、または計画運休を想定すべきです。

 職場として災害に対応することも重要ですが、まずは数名の職員が帰宅できないということについて検討してみてはいかがでしょうか。

 タクシー代を職場が負担してあげるだけでも安心感が高まります。
 タクシー代が出せないのであれば、とりあえず待機できる個室を用意するのも良い方法だと思います。

 帰宅手段を失った人に、新たな帰宅手段を与えるか、帰宅しないという選択肢を与えるか、いずれかをしないと気象予報で『災害級の天気』と言った途端に出勤者が激減して業務が遂行できないという可能性もあります。




 今回は帰宅難民(帰宅困難者)についてまとめさせていただきました。

 以前、我々は帰宅難民対応BCPの策定サービスを企画したことがあります。これは兵庫県庁が補助金を出していたので、その内容に沿った形でキャンペーンを展開しましたが、多くの企業がBCPに関心を持ったとしても帰宅難民には関心薄でした。

 従業員の側も帰宅難民になるとは思っていない人が多いですし、会社がそこにお金を使うくらいなら食堂を改善するとか、携帯電話を機種変更して欲しいとか、要望も多いと思いますので仕方ないと思います。

 梅雨の時期に入り、暴風雨による帰宅難民が発生しやすい季節になりましたので、明日は我が身だと思って考えてみて頂ければと思いました。