地区防災計画
地区防災計画とは、計画しようと考えた人が描く『地区』に特化した防災計画です。
敷地内、町内会、学校区など地区はどのように区切っても間違いではありません。
似た言葉で『地域防災計画』がありますが、これは災害対策基本法に基づきますので定義があります。
エリアが定義されないので自由度が高い反面、何をして良いかわからないというご意見も聴かれます。
地域防災計画
地域防災計画は災害対策基本法という法律に定義されたものです。
同法第二条の十に、都道府県地域防災計画と市町村地域防災計画が定義されています。
都道府県は全47自治体が策定済で、公開もされています。
市町村は未策定または未公開の自治体があります。法律で策定が義務付けられている訳ではなく、市町村が作成した地域防災計画とはこういうものだという定義がなされているのが現状です。
(定義)第二条
災害対策基本法
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
[中略]
七 防災計画 防災基本計画及び防災業務計画並びに地域防災計画をいう。
[中略]
十 地域防災計画 一定地域に係る防災に関する計画で、次に掲げるものをいう。
イ 都道府県地域防災計画 都道府県の地域につき、当該都道府県の都道府県防災会議が作成するもの
ロ 市町村地域防災計画 市町村の地域につき、当該市町村の市町村防災会議又は市町村長が作成するもの
ハ 都道府県相互間地域防災計画 二以上の都道府県の区域の全部又は一部にわたる地域につき、都道府県防災会議の協議会が作成するもの
ニ 市町村相互間地域防災計画 二以上の市町村の区域の全部又は一部にわたる地域につき、市町村防災会議の協議会が作成するもの
地域防災計画を見る(読む)
地域防災計画はほとんどが公開されています。
これまで一覧にまとめられたものがありませんでしたが、いmは下記データベースで検索することができます。
ソート機能がありますので、人口の近い自治体で比較する場合などに便利です。
備えるべき災害
非常に広範囲で恐れられている災害の1つに『南海トラフ巨大地震』があります。
下の動画は内閣府防災公式チャネルで公開されている動画です。
下の動画も同じく内閣府防災公式チャネルのものです。平易な感じに仕上げていますが、ところどころ『?』と思う箇所もあるかもしれませんが、概ねそういうことが起こり得ます。
地区防災計画策定
地区防災計画は、自治体単位ではないので、よりきめ細やかな内容にすることができます。
地区単位で自由に、細やかに計画することができる一方で、同じ物は2つと無いかもしれないということになります。
逆に言うと、まったく同じ内容になるのであれば、例えば町内会で計画するのではなく小学校区で1つの計画にまとめても良いと思います。
危険因子を探す(←大変)
防災教室のようなところで『地域の危険を探しましょう』というレクチャーがあったりしますが、素人が見て気づく危険とは何でしょうか。
まず、プロが見てわかるようなものは素人にはわからないかもしれません。
防火水槽(消防水利)は消防署のプロ達が定期的に点検していますので危険については彼らが把握しています。
道路の陥没や橋の崩落は市役所や国土交通省の範疇なのでプロに委ねた方が良いかもしれません。
普段から散歩して危険そうな場所を見つけては地域で話し合ったり、市役所に相談するなどして危険であるかどうかの判断をしてもらうのは有用な手段だと思います。
最も危険なことは『過信』です。
誰かが『あそこは大丈夫』と言ったことを信じ切って対策を講じていなかったり、通るべきでなかったのに災害時に通ってしまって負傷するようなことが起こらないようにすべきです。
近所で困る事は?
危険を探すよりも素人向きなのが、困りごとを探す事です。これは子供でもできます。
例えば通学路で困りそうなことをさがすことで、避難所への道程のリスクを発見できるかもしれません。
『ここは道が狭い』『あの自動販売機が倒れたら』といったことから道に対する不安材料を集めます。
自動販売機が危険かどうかわかりませんが、倒れて道を塞げば困るのは事実だと思います。
自宅で困ることも?
地区防災計画は地区のためにつくるものですが、必ずしも共助や互助に徹しなくても大丈夫です。
近年は避難所に行かない自宅避難をする人も増えていますが、自宅にすべての備蓄をしてしまうと、それが使えない時に困ることもあります。
避難所には汎用品しか置いてないと考えた方が良いです。
食べ物でも洗剤でも、アレルギー対応品があるとは限らないので、自身の体質に合わせた宅外備蓄をしたい人も居るかもしれません。
宅外備蓄ができるように地区で計画することも有用です。
それを個人用とすべきか、地区の共有財産として備蓄するかは話し合いが必要になりますが、最初のうちは個人別に備蓄していくと争いも少なく話が早いと思います。
計画に反映する
『新生児用のオムツが欲しい』と発言する人が居ても、それを必要とするのは地区で1世帯だけ、しかも半年後には必要なくなってしまう、ということで永遠に備蓄されないアイテムになってしまう事が多いです。
地区の事情を鑑みる必要がありますが、案を採用して計画を増強していくことが地区防災計画の本質です。
『あの水路の橋が崩落したら』ということで、市役所に橋の架け替えを依頼しても何年先になるかわかりません。
仮の橋を架けられるような資材を備蓄する、そこを通らない手段を考える、代替案は色々とあります。
困ると分かっているならば、早めに議論して対応策を計画していくことが重要です。
実効性・実行性
『それって本当にできるの?』ということがあります。
例えば『独居高齢者のお宅を見回ってから避難する』という目標を掲げるのは良いですが、津波や大火などでは避難までにタイムリミットがあります。
在宅/不在がわかっていたり、協力的な人ばかりで避難訓練するとスムースに進むことでも、いざ災害が起きた時は停電でインターホンは鳴らず、カギがかかった家にガラスを割ってまで入るべきか躊躇し、そうこうしている間にサイレンが鳴り響いて焦ってしまう、ということになります。
地区防災計画は義務で策定するものでもないですし、計画された内容に義務や責任が生じる訳でもないので、そのレベル感を共有しつつ、実効性・実行性の高い計画に仕上げていくことが重要です。
プロを呼ぶ
BCPコンサルタントや災害アドバイザーなど自称するのは簡単です。法律上の名称独占などもありません。
特に何かを名乗らなくても防災のプロ、災害のプロは色々と居りますので、プロの協力を要請するのも良い事だと思います。
もっとも身近なプロは消防署の職員さんだと思います。
地域によっては自衛官やそのOB/OGも居ると思います。
コンサルタントはある意味で責任をもって仕事をしているはずですので、相応の仕事をしてくれるはずです。
いずれのプロにも謝金は発生すると思っておくと良いでしょう。公務員さんは謝金を受け取らないかもしれませんが、生命や財産に関わることなので、そのコンテンツはタダでは手に入らないと思っておいて、タダだったときには対価に見合った感謝をすると良いのではないかと思います。
内閣府からの提供資料(無料)
動画で京都大学の先生が述べている4つの誤解ポイントは以下のとおりです。
- 地区防災計画は行政が行うことではありません。
- 地区防災計画は計画書を作ることではありません。
- 地区防災計画はどの地区でも一緒ではありません。
- 地区防災計画は一度きりで終わりではありません。
おっしゃるとおりのことを理解しなければ始まりません。
令和3年度 第1回地区防災計画の作成に関する基礎研修会(令和3年12月24日)
地区防災計画の共有
内閣府が主催するフォーラムでは各地の事例が共有されています。動画が少々長いので疲れてしまうかもしれませんが、動画なので少しずつ見る事も出来るので、チャレンジしてみてはいかがでしょう。
過去2回とも、宮城・福島で発生した地震と近い日に開催されているのは怖い偶然です。
地区防災フォーラム2022
このフォーラム開催日は2022年3月20日14時、この4日前の3月16日23時半頃には宮城・福島で震度6強の地震が発生しています。
このフォーラムの次第は以下の通りです。
パネルディスカッション
ファシリテーター
加藤 孝明(東京大学 生産技術研究所教授/東京大学 社会科学研究所特任教授)
矢守 克也(京都大学 防災研究所巨大災害研究センター教授)
コメンテーター
阪本 真由美(兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科教授)
磯打 千雅子(香川大学 IECMS地域強靭化研究センター特命准教授)
テーマ①「地区防災計画と個別避難計画の連携について」
・熊本県あさぎり町永山地区
・愛媛県松山市高浜地区
・兵庫県川西市清和台地区
テーマ②「多様な主体による地区防災計画の取組について」
・沖縄県北谷町美浜地区
・神奈川県横須賀市よこすか海辺ニュータウンソフィアステイシア自主防災会
・鳥取県若桜町わかさ氷ノ山地区
『地区防災フォーラム2021』
内閣府防災担当の村川氏が司会を務めて開催された地区防災計画フォーラム2021の動画が公開されています。
このフォーラム開催日は2021年2月14日13時半、約半日前の2月13日23時7分には宮城・福島で震度6強の地震が発生しています。
このフォーラムの次第は以下の通りです。
○内閣府講演
『防災からはじまるコミュニティづくりに向けた地区防災計画の活用』
中尾晃史(内閣府制作統括官(防災担当)付参事官)
○事例紹介
『災害経験地からの地域防災の取組』
荒尾市/熊本市秋津校区防災連絡会/熊本最学大学院先端科学研究部
○パネルディスカッション
〇パネルディスカッション
『災害を経験した地区における地区防災の主体の取組、その支援者の役割』
ファシリテーター 加藤孝明(東京大学生産技術研究所教授)
コメンテーター 鍵屋一(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授)
パネリスト
愛媛県松山市高浜地区自主防災連合会長 蔭原 政徳
岡山県危機管理課 総括副参事 岡崎 進一
福岡県朝倉市総務部復興推進室長 梅田 功
熊本大学大学院先端科学研究部准教授 竹内 裕希子
防災科学技術研究所災害過程研究部門主任研究員 李 泰榮
関連リンク
おわりに
今回は『地区防災計画』について取り上げました。
『地区』とは何か、それは各地区で勝手に決めて良い事になっていますし、『計画』の内容もそれぞれに勝手に考えられます。
あまりに自由度が高いので『防災』について普段は関わりが無いから難しい、という意見が出る事がありますが、地区防災については我が身を守るための手段にもなりますので、専門性よりも危機感の方が重要になると思います。