災害拠点病院
災害拠点病院には『指定要件』があり、要件を満たさなければ指定されません。
逆に言えば、災害拠点病院を名乗っている病院はすべて、要件を満たしています。
災害拠点病院運営についての要件
- 24時間緊急対応し、災害発生時に被災地内の傷病者等の受け入れ及び搬出を行うことが可能な体制を有すること。
- 災害発生時に、被災地からの傷病者の受け入れ拠点にもなること。
- 災害派遣医療チーム(DMAT)を保有し、その派遣体制があること。
- 救命救急センター又は第二次救急医療機関であること。
- 被災後、早急に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を行っていること。
- 整備された業務継続計画に基づき、被災した状況を想定した研修及び訓練を実施すること。
- 地域の第二次救急医療機関及び地域医師会、日本赤十字社等の医療関係団体とともに定期的な訓練を実施すること。
また、災害時に地域の医療機関への支援を行うための体制を整えていること。 - ヘリコプター搬送の際には、同乗する医師を派遣できることが望ましいこと。
施設及び設備についての要件
- 多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷等の災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うために必要な診療設備
- 災害時における患者の多数発生時に対応可能なスペース(入院患者は2倍、外来患者は5倍)及び簡易ベッド等の備蓄スペースを有すること
- が望ましい。
- トリアージ・タッグ
- 原則として病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること。
- 診療機能を有する施設は耐震構造を有することとし、病院機能を維持するために必要な全ての施設が耐震構造を有することが望ましい。
- 通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保しておくこと。
- 食料、飲料水、医薬品等について、3日分程度を備蓄しておくこと。
- 少なくとも3日分以上の受水槽の保有、停電時にも使用可能な井戸設備の整備、優先的な給水協定の締結等により災害時の診療に必要な水を確保すること。
- 衛星電話を保有し、衛星回線インターネットが利用できる環境を整備すること。
- 被災地における自己完結型の医療救護に対応できる資機材の保有
- DMATや医療チームの派遣に必要な緊急車両を原則として有すること。
【参考】厚生労働省:災害医療, 災害拠点病院指定要件(令和元年7月17日一部改正)
【参考】厚生労働省:災害拠点病院指定要件の一部改正について, 厚生労働省医政局, 医政発0717第8号, 令和元年7月17日
【参考】厚生労働省:災害時における医療体制の充実強化について, 厚生労働省医政局長, 医政発0321第2号, 平成24年3月21日
通知『災害拠点病院指定要件の一部改正について』
標記については、「災害時における医療体制の充実強化について)(平成24年3月21日付け医政発0321第2号厚生労働省医政局長通知)別紙「災害拠点病院指定要件」(以下「指定要件」という。)により示し、必要に応じ改正を行ってきたところである。
災害拠点病院指定要件の一部改正について
今般、 救急・ 災害医療提供体制等の課題について検討することを目的として開催した「救急・災害医療提供体制の在り方に関する検討会」において、災害拠点病院の指定要件に見直しについて議論が行われ、電気の確保について、災害時に電力供給・燃料補給が途絶しても3日程度自家発電機等により病院の機能を維持できるよう、自施設における燃料備蓄を要件として明示するとともに、水の確保については、平成30年に発生した一連の災害において病院等における水不足が問題になったことを踏まえ、貯水や地下水の活用等により、少なくとも3日 分の病院の機能を維持できる水を確保することが望ましい旨明示することとの結論を得たところである。
これらを踏まえ、指定要件の一部を別紙とおり改正するこしたので、貴職におかれては、改正内容等についてご了知いただくとともに、貴管下医療機関に対し周知方お願いする。
なお、指定要件は、今後も検討会等における議論や、新たな知見等を踏まえ都度見直しがあることについて、併せて留意されたい。
別紙『災害拠点病院指定要件』
これは医政局通知『災害拠点病院指定要件の一部改正について』の別紙として同時に発出された文書です。
元は2012年の医政発0321第2号(平成24年3月21日)の『災害時における医療体制の充実強化について』がベースにあり、その最終版が『災害拠点病院指定要件の一部改正について』(医政発0717第8号, 令和元年7月17日)の別紙として付けられています。
別紙(1)運営体制
①
24 時間緊急対応し、災害発生時に被災地内の傷病者等の受入れ及び搬出 を行うことが可能な体制を有すること。
②
災害発生時に、被災地からの傷病者の受入れ拠点にもなること。なお、「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)」が機能していない場合に は、被災地からとりあえずの重症傷病者の搬送先として傷病者を受け入れる こと。また、例えば、被災地の災害拠点病院と被災地外の災害拠点病院との ヘリコプターによる傷病者、医療物資等のピストン輸送を行える機能を有し ていること。
③
災害派遣医療チーム(DMAT)を保有し、その派遣体制があること。ま た、災害発生時に他の医療機関のDMATや医療チームの支援を受け入れる 際の待機場所や対応の担当者を定めておく等の体制を整えていること。
④
救命救急センター又は第二次救急医療機関であること。
⑤
被災後、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を行って いること。
⑥
整備された業務継続計画に基づき、被災した状況を想定した研修及び訓練 を実施すること。
⑦
地域の第二次救急医療機関及び地域医師会、日本赤十字社等の医療関係団 体とともに定期的な訓練を実施すること。また、災害時に地域の医療機関へ の支援を行うための体制を整えていること。
⑧
ヘリコプター搬送の際には、同乗する医師を派遣できることが望ましいこ と。
別紙(2)施設及び設備
①医療関係
ア.施設
災害拠点病院として、下記の診療施設等を有すること。
(ア)
病棟(病室、ICU等)、診療棟(診察室、検査室、レントゲン 室、手術室、人工透析室等)等救急診療に必要な部門を設けるととも に、災害時における患者の多数発生時(入院患者については通常時の 2倍、外来患者については通常時の5倍程度を想定)に対応可能なス ペース及び簡易ベッド等の備蓄スペースを有することが望ましい。
(イ)
診療機能を有する施設は耐震構造を有することとし、病院機能を 維持するために必要な全ての施設が耐震構造を有することが望ましい。
(ウ)
通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日 分程度の備蓄燃料を確保しておくこと。なお、自家発電機等の燃料と して都市ガスを使用する場合は、非常時に切替え可能な他の電力系統 等を有しておくこと。また、平時より病院の基本的な機能を維持する ために必要な設備について、自家発電機等から電源の確保が行われて いることや、非常時に使用可能なことを検証しておくこと。なお、自 家発電機等の設置場所については、地域のハザードマップ等を参考に して検討することが望ましい。
(エ)
災害時に少なくとも3日分の病院の機能を維持するための水を確 保すること。具体的には、少なくとも3日分の容量の受水槽を保有し ておくこと又は停電時にも使用可能な地下水利用のための設備(井戸 設備を含む。)を整備しておくことが望ましいこと。ただし、必要に 応じて優先的な給水協定の締結等により必要な水を確保することにつ いても差し支えないこと。
イ.設備
災害拠点病院として、下記の診療設備等を有すること。
(ア)
衛星電話を保有し、衛星回線インターネットが利用できる環境を 整備すること。また、複数の通信手段を保有していることが望ましい。
(イ)
広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加し、災害時 に情報を入力する体制を整えておくこと。すなわち、情報を入力する 複数の担当者を事前に定めておき、入力内容や操作方法などの研修・ 訓練を行っておくこと。
(ウ)
多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷等の災害時に多発する重篤救 急患者の救命医療を行うために必要な診療設備
(エ)
患者の多数発生時用の簡易ベッド
(オ)
被災地における自己完結型の医療に対応出来る携行式の応急用医 療資器材、応急用医薬品、テント、発電機、飲料水、食料、生活用品 等
(カ)
トリアージ・タッグ
ウ.その他
食料、飲料水、医薬品等について、流通を通じて適切に供給されるまで に必要な量として、3日分程度を備蓄しておくこと。その際、災害時に多 数の患者が来院することや職員が帰宅困難となることを想定しておくこと が望ましい。
また、食料、飲料水、医薬品、燃料等について、地域の関係団体・業者 との協定の締結により、災害時に優先的に供給される体制を整えておくこ と(ただし、医薬品等については、都道府県・関係団体間の協定等におい て、災害拠点病院への対応が含まれている場合は除く。)。
②搬送関係
ア.施設
原則として、病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること。
病院敷地内に離着陸場の確保が困難な場合は、必要に応じて都道府県の協力を得て、病院近接地に非常時に使用可能な離着陸場を確保するととも に、患者搬送用の緊急車輌を有すること。
なお、ヘリコプターの離着陸場については、ヘリコプター運航会社等の コンサルタントを受けるなどにより、少なくとも航空法による飛行場外離 着陸場の基準を満たすこと。また、飛行場外離着陸場は近隣に建物が建設 されること等により利用が不可能となることがあることから、航空法によ る非公共用ヘリポートがより望ましいこと。
イ.設備
DMATや医療チームの派遣に必要な緊急車輌を原則として有すること。 その車輌には、応急用医療資器材、テント、発電機、飲料水、食料、生活用品等の搭載が可能であること。
別紙(3)基幹災害拠点病院
①
(1)③について、複数のDMATを保有していること。
②
(1)④について、救命救急センターであること。
③
災害医療の研修に必要な研修室を有すること。
④
(2)①ア.(イ)について、病院機能を維持するために必要な全ての施 設が耐震構造を有すること。
⑤
(2)②ア.について、病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること。
別紙(4)その他
災害拠点病院の指定に当たっては、都道府県医療審議会等の承認を得ることとし、指定されたものについては医療計画に記載すること。また、都道府県は 指定した災害拠点病院が要件に合致しているかどうかを毎年(原則として4月1日時点)確認し、指定要件を満たさなくなった場合には指定の解除を行うこと。なお、既に指定している災害拠点病院であって、(2)①ウ.についての要件を満たしていないものについては令和2年3月までに実施することを前提に、また、(1)④、(2)①ア.(イ)又は(2)②ア.の要件を満たしていないものについては当面の間、指定を継続することも可能とする。
指定又は指定の解除を行った際には、その内容について厚生労働省に報告すること。
なお、災害拠点病院は、厚生労働省及び都道府県の行う調査に協力すること。
停電対応に関するポイント
発電容量
平時の医療の6割程度をカバーできる自家発電設備を要求しています。
6割は相当な電力です。
257床の市立病院で常用電力が1,300kWなので6割だと780kWです。
病床数800床の大学病院には2,500kVAの自家発電設備が2系統、すなわち5,000kVAの発電容量を持っています。
燃料備蓄
3日分程度が要件です。
燃費に依存しますが、1時間あたり100Lの軽油消費があれば、72時間分で7,200Lの備蓄が必要です。7~8トンの軽油を備蓄し、それを使える状態に維持しなければならないことになります。
ヤンマーの2,500kVAの発電機は約1,000L/hrの燃費です。3日分で72,000Lの備蓄が必要です。72トンもの化石燃料を院内に備蓄というのがどういうことか、災害拠点病院を名乗るからには相応の覚悟も必要ということになります。
以前は『燃料を確保』で良かったので、発災後に配達してもらっても良いという事になります。
令和元年の改正後は『備蓄燃料として確保』となったので、自院の管理下に備蓄しておく必要が発生しました。
都市ガスを燃料とする場合は、都市ガス以外の電力系統も有しておくという旨の追記がなされています。
【参考】ヤンマー:ヤンマー非常用ディーゼル・ガスタービン発電機 燃費一覧表
水確保に関するポイント
3日分
『病院の機能を維持するための水』を3日分確保することになっています。
通知文には『少なくとも3日分の容量の受水槽を保有しておくこと』または『停電時にも使用可能な地下水利用のための設備を整備しておくこと』が望ましいとされています。
3日分の容量の受水槽
従前は井戸設備と給水協定の2択でしたが、今回は『3日分の容量の受水槽』が追記され、しかも先頭に書かれました。
本当に3日分の受水槽を設置するとなると相当に大きいです。
手洗い、給食、滅菌洗浄など様々な業務で使われる水が1床あたり100L/dayだと仮定すると500床×3日間なら150,000L、150トンであり150立米であす。高さ2mの受水槽なら75平米の広さ、高さ3mで50平米の面積が必要であす。
4床部屋が7m×7mくらいだとすると、その天井高が3mであれば150立米に相当します。
施設によっては1床100Lではまったく足りない場合も想定されるが、平時の3日分と考えなければ容量を減らすことができます。
災害時の水消費
3日分のノルマがあるので、現実的に貯水できる量で3日分を主張せざるを得ません。
仮にベッド数500床、職員数500人の計1,000人で考えてみます。
全員がトイレに行けるとして1日5回、毎回2Lの水を使うとして5回×2L×3日×1,000人で30,000L、30トンです。
滅菌や洗浄に使用する水の量は回数に依存するが、1回20L程度の洗浄を50回として1トンです。
滅菌も洗浄も自動化が進んでいるため量の調節は難しいです。
食事には1食・1人分で0.5L、3食×3日で1千人分だと4.5トンになります。
食器洗浄は不要とするために紙皿などを使用して水道使用量を抑制する策が講じられると思います。
35トンくらいなら現実的かもしれません。
もし受水槽容量が100トンであれば、残量が3割になったら自動給水する設定になっていると最少貯水量が30トンです。
水の鮮度を保つために適正な給水があるので施設毎の事情は異なると思います。
給水協定
発電設備の燃料は『3日分程度の燃料を確保』が『3日分程度の備蓄燃料を確保』に変更され『備蓄』が要件となりました。
水に関しては『優先的な給水協定の締結等により必要な水を確保』することについても差し支えない方法として示されています。
往診(救援)にも電気と水
被災地にて『自己完結型の医療』に対応するため、以下のような物品の『携行式』の物を備えておくよう通知されています。
- 応急用医療資器材
- 応急用医薬品
- テント
- 発電機
- 飲料水
- 食料
- 生活用品
- ほか
災害拠点病院の出入
DMAT参集拠点が災害拠点病院であった場合、その災害拠点病院への到着を阻むものがあれば『拠点』として使う事にも影響します。
2015年の厚労省の調査結果によると、洪水等による『浸水あり』を想定している災害拠点病院は34.0%、その約半数が排水ポンプ等の『対策なし』と回答しています。
救急車等のアクセス支障については58.9%が何らかの被害を想定し、その内の84.9%は『対策なし』と回答しています。
災害拠点病院の26.4%はアクセス支障があっても代替路確保が困難と回答しているのは現状だとしても、その内の86.0%は『対策なし』と回答していることから、今後の改善は期待薄かもしれません。
仮に被災地の4分の1の災害拠点病院が拠点として機能しない場合、予定していた傷病者がどこへ割り振られるのか、その割り振り先が市中の一般病院であったら、その在り方については行政や議員なども交えてしっかりと話し合うべきかもしれません。
1円たりとも災害対策の費用が公布されていない病院が災害時の傷病者受入先となり、DMATが集まって来て診療するとなれば、地域の住民にとっては安心材料になりますが、自助努力で整備した病院にとっては利益を削って社会貢献するだけのことになりかねないと思います。
医療機関が地域住民に医療サービスを提供するために存在することは間違いありませんが、災害時の医療提供体制についてまで責任を負うものでもないので、責任を負っている災害拠点病院の機能向上が期待されます。
【参考】厚生労働省:災害拠点病院への傷病者受入れ体制の確保に関する調査結果について, 医政地発0324第2号, 平成27年3月24日
【参考】厚生労働省:日本DMAT活動要領の一部改正について, 医政地発0208第1号, 令和4年2月8日」
厚生労働省
災害拠点病院については厚生労働省の『災害医療』のページに掲載されています。
出て来るキーワードは以下のようなものです。
- 災害拠点病院
- DMAT
- 災害医療コーディネーター
- ドクターヘリ(災害時運用)
ほとんど災害拠点病院など、災害を専門的に診る『災害医療の専門家』関係の資料です。
一般の病院や診療所が『災害時にも医療を続ける』という面での災害時の医療についてはほとんど掲載されていませんので、平時の継続については別問題として考えた方が良いと思います。