災害などが発生すると、報道特番に切り替わることがあります。
小規模の地震であっても字幕でその旨が知らされることが多くありますが、それはなぜなのかを改めて掘り下げてみました。
総務省
放送を免許するのは総務省です。
トランシーバーやアマチュア無線、コードレス電話、Wi-Fiなど民間人レベルで使われる電波も総務省です。
携帯電話やテレビ放送などの業務用無線も総務省です。
総務省のウェブサイトでは下図のような『災害協定』についての記事がありました。
ラジオ
ラジオも免許するのは総務省です。
ラジオには大きくAMとFMがあり、周波数帯の違いがあり、受信機もAM用とFM用で違いますが、だいたいのラジオは両方受信できるように作られています。
ラジオ局にはNHKのように1社で全国ネットを持つもの、東京FMなど全国でアライアンスを組んで共同制作番組を持つようなネットワーク、地方で広範囲に放送する局、コミュニティ放送などと呼ばれる半径数キロ程度を可聴エリアとして放送する局などがあります。
下の動画は2022年にあった地震の後のNHKラジオです。
上の動画は発災後30分程度でしたが、その日の深夜のラジオも音源が残っていました。
台風の場合は、災害が起こるかもしれないという段階を経て、実際に災害が起きている地域があり、その台風が移動していくので情報を欲しがるエリアやレベル感が全国でバラつきます。
下の動画は台風の日のラジオ放送です。
基本的に、欲しい情報は手に入らない感じです。台風が来ているな、危険だなと感じるための情報提供かなと思います。
下の動画は訓練時のコミュニティ放送です。
このレベルになると、おそらく『災害協定』は締結されていないので、訓練があることを行政が通知することも無ければ、それに協力するよう要請することも無いようです。
とはいえ、この局では自主的に放送していました。
コミュニティFM
コミュニティFM放送局は、災害を機に開設された局も多く、災害時の活用が期待されています。
災害時に聴けることに意味があるので、ネット放送で全世界に発信しているコミュニティ放送であっても、電波が届かなければ災害時には聴けない可能性があります。
兵庫県伊丹市には、市の税金が3千万円以上投じられているというコミュニティFM局があります。
当然ながら市内全域をカバーしているかと思いきや、微妙なところがあることがわかりました。
『可聴エリア』の定義の仕方にもよりますが、多少の雑音が入っても放送されていることがわかる、ということであれば可聴エリアは市内全域です。
一方で、同時に複数の音が混ざると聴き分けられないような、聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder)の人にとっては、雑音が入っている時点で、情報としては受け取れないのでラジオ放送自体が雑音であるとも言えます。
筆者もAPDの気が在るのですが、実際に税金が投じられているラジオ放送を聴いていたところ、かなり疲れました。自分が欲しい情報はどれなのかを聴き分けなければならないので、仕事をしながらラジオを聴くという感じではありません。
税金をたくさん使っている伊丹市の人口は約20万人、1人あたり240円を支払ってラジオ局を維持していることになります。5人家族なら年1,200円支払ってラジオ局を維持していることになります。
支払いはさせられるが、雑音だらけの聴き分け困難な放送を届けられたのでは、普段から聴くということには値しません。災害時にだけ聴くとしても、情報として伝わらない音質であれば、災害時も使いません。
しかしながら、税金は投じられています。
一方で、お隣の尼崎市に目を向けると、こちらは一般社団法人が自立してコミュニティFM局を運営しています。
税金を使っていません。
仮に税金を使うとしても、尼崎市の税金であって、お隣の伊丹市民は負担しません。
伊丹市に居ながら、伊丹市のラジオ放送は音質が悪い。
伊丹市に居ながら、尼崎市のラジオ放送は音質が良い。
必然的に、尼崎市のラジオ放送を聴くようになります。
コンテンツとして、災害時にどのエリアの情報が流れるのかが重要になりますが、停電していても、電話線が切れていても地域の情報を得る事が出来るコミュニティラジオには期待が寄せられます。
テレビ
テレビはキー局と呼ばれるような、昔で言うとアナログ時代はVHF帯で放送していた局が全国ネットを持っていたりします。
地方局やローカル放送などと呼ばれる、アナログ時代はUHF帯で放送していた局は1県程度の範囲を視聴可能エリアとして放送しています。
下の動画は東京のキー局、日本テレビのニュースzeroを視聴中に地震が発生したというときの様子です。
有働アナの対応が素晴らしいです。周囲を慌てさせず、一方で危機感を伝える言葉の選び方や抑揚、声色などが素晴らしいです。
代わってこちらは台風のときのNHKです。
時間帯が変わっても、放送している内容は同じかもしれない、という資料です。
その日のNHK放送を30分間、見比べるだけの動画がありました。
台風の日の民放です。
こちらは停電しているところを見つけて中継しています。
災害対策基本法
災害対策基本法という法律の条文を見ると、放送に係る文言が見られます。
まず第2条ではNHK(日本放送協会)を『指定公共機関』に定義しています。
この定義の条文ではその他の機関として『通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するもの』があり、東京のキー局などが指定を受けています。
最近ですと、楽天モバイルが指定公共機関に指定されて話題になりました。
(定義)
第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。[中略]
五 指定公共機関 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するものをいう。
[以下省略]
災害対策基本法 第二条
ずっと後ろの方の第57条では放送法に触れています。この条文では放送法以外にも電気通信事業法や有線電気通信法にも及んでいます。
要するに、公共の電波に乗って広く通信する放送局と、公衆電話や携帯電話など1対1の通信をする電話屋さん、そして両方を兼ねるようなインターネット通信に係る事業者を想定した第57条であると言えます。
この第57条により、都道府県知事又は市町村長は情報の提供を行うことを求めることができるとされています。
(警報の伝達等のための通信設備の優先利用等)
第五十七条
災害対策基本法 第五十七条
前二条の規定による通知、要請、伝達又は警告が緊急を要するものである場合において、その通信のため特別の必要があるときは、都道府県知事又は市町村長は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、政令で定めるところにより、電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第五号に規定する電気通信事業者がその事業の用に供する電気通信設備を優先的に利用し、若しくは有線電気通信法(昭和二十八年法律第九十六号)第三条第四項第四号に掲げる者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用し、又は放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二十三号に規定する基幹放送事業者に放送を行うことを求め、若しくはインターネットを利用した情報の提供に関する事業活動であつて政令で定めるものを行う者にインターネットを利用した情報の提供を行うことを求めることができる。
後半の第108条の2にも放送の条文があります。
内閣総理大臣は災害の状況や措置その他の災害関連情報を放送などを通じて公表しなければならないとされています。
災害の一方は気象庁の担当者などの記者会見から始まり、担当大臣や内閣官房からの発表がありますが、大規模災害では必ず内閣総理大臣が記者発表するのはこの法令に基づく義務として行われている場合があります。
(情報の公表)
第百八条の二
災害対策基本法 第百八条の二
内閣総理大臣は、第百五条の規定による災害緊急事態の布告に係る災害について、当該災害の状況、これに対してとられた措置の概要その他の当該災害に関する情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により公表しなければならない。
義務だから薄い?
災害対策基本法や放送法に基づき、指定された放送局は行政から要請されれば高視聴率のドラマやバラエティ番組をお休みして災害を報道することになります。
災害に係る報道では、テレビCMが自粛されることがあります。CMが流れないということは、放送局は収入源を失うことになります。
視聴率20%のドラマを流せば何十億円という広告料が得られるかもしれないが、視聴率50%超の災害報道特別番組を流しても1円にもなりません。
災害時の放送は、特に新しい情報を流す事もなく、同じネタを繰り返しているに過ぎないことがあります。
CMが流せるようなレベルの災害であれば、ワイドショーネタになりそうなところを、土足でズカズカと入っていく感じで取材します。
この広告収入の有無が、災害時の報道を分けているようにも思えますが、これは筆者の私見です。
ジャーナリズム?
筆者は報道関係者ではないので、ジャーナリズムとは何かわかりません。
関西のローカル番組では、久米宏さんが当時の取材について語っています。その動画は見当たらないのですが、少し関係しそうな動画を貼り付けておきます。
一生懸命に状況を伝えようとした報道関係者はたくさん居たようです。
とはいえ、生き埋めになった人を救出している消防署員に対して取材をして怒られたというエピソードが紹介されているように、報道の現場の在り方については議論をすべきだと思います。
報道側は、報道したいことを選んで報道している感もあるので、そうではなく、被災地で放送されるニュース類であれば救援物資などの貰える場所を報じ、遠隔地で放送されるニュースであれば不足している物資やマンパワーなど救援に関する報道が必要なのではないかと思います。
偶然撮られた写真が、のちに芸人になったという例も紹介されています。
報道側が撮ったものが、のちに状況を伝えるコンテンツになった事例です。
報道の在り方というと、我先にというか、どうしても欲しい映像があるようでヘリが集中する事例がよくあります。
過日、駅前でバスが突っ込んだ事故があったのですが、ロータリーの植え込みやビルに突っ込んだようなバスの映像を夕方のニュースに流そうと、報道各社のヘリが順番に事故現場の上を通っていました。
この日のヘリは Flightradar24 で見てもよくわかりましたが、リアルに下から見ていても全機が同じ軌道でグルグルと回っていました。なので、ニュース番組ではどの局も同じような角度で、同じような映像が流れていました。
ヘリ墜落のリスクがあり、燃料も使うので、あの場合は代表する1社が映像を撮って各社でシェアすれば良いのではないかと思いました。
地上も騒然としているので、報道陣が10人減れば、その分だけ現場にスペースが生まれます。
【参考】商業施設に突っ込んだバス運転手「アクセルとブレーキの操作誤った」…阪神西宮駅の事故
事故現場は被害者が限定的なので報道陣が居てもストレスを感じる人は少ないかもしれませんが、地震などではストレスが大きくなります。
実際、ある地震の被災地から電話がかかってきたとき、ヘリの音で何も聞こえませんでした。被災者の限られたスマホ電池、やっとの連絡、邪魔する報道陣、どうなんでしょうか。
ジャーナリズムはわかりませんが、被災者の気持ちを踏みにじって良いことはないはずです。
カネで無いことを願う
医療従事者は、人道的立場から災害時に治療費を払って貰えるかどうかを確認することなく、診療にあたります。
それは、阪神淡路大震災でも東日本大震災でも実証されました。
放送局はどうでしょうか。
将来の番組制作に使えるコンテンツを集めるために被災地へ来ているのであれば、彼らが見たいものだけ、欲しい情報だけしか集めません。
被災地が欲しいモノやコトは何なのか、それを影響力がある放送局が流す努力をしてもらえることを願っています。
私見です
ここはブログ、筆者の私見を述べているにすぎません。感じ方は色々です。誹謗中傷はお断りします。