定年退職と新卒入社
ミレニアムベビーなどと呼ばれた2000年生まれは119万人居ました。2000年に成人を迎えた若者は164万人でした。
そのミレニアムベビーが22歳になる2022年、現役であれば大学を卒業し多くが就職する年です。
今年60歳となる1962年生まれは162万人、2020年10月の国勢調査で58歳であった人が149万人でした。
同調査で63歳だった人は140万人でした。
この内の何人が現役で働いていて、何人が定年を迎えるかわかりませんが『同い年』と言える人数は140~150万人程です。
【参考】e-Stat:人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生
単純な足し引きではない世代入替
生産年齢人口は15~64歳でカウントされますが、中卒で就職する人は少ないと思われますので社会人デビューは18歳か22歳が多いと思われます。
いずれにしても定年退職していく社会人40年程のベテランとは違いがあります。
100万人が退職して100万人が就職するとき、定年退職者の穴を埋めるのはすぐ下の世代、例えば64歳の世代です。
20歳前後が埋めるのは同世代の、少し前まで新人だった人たちの層です。
これはIn/Outが同等の場合に成り立っていましたが、100万人退職しても80万人しか就職者が居なければ20万人の要員不足が発生します。
小さなところで言えば、前年より1万人少なければ、2年目になっても後輩が居ない人が1万人発生するかもしれません。一番の下っ端がする仕事を、2年目も続けなければなりません。
過去には就職氷河期も
『就職氷河期』とはバブル崩壊後に社会に出る事になった1993年~2005年卒の世代を指します。
筆者は高校卒業年が1993年、現役で大学を卒業すると1997年になるので、就職氷河期の初期に就職活動した世代です。
自身は工業高校卒、国家資格も取得して職人の世界へと進んだので就職活動にさほど苦労はしなかったのですが、大変な思いをした同級生はたくさん居ました。
先輩方はバブルを知っている世代、毎晩どこかで宴会があり、タクシーで帰宅するという経験をなさっていましたが、私たちの世代は経費節減なので繁華街に出向くこともありませんでした。
3Kは敬遠
就職氷河期には『3K』回避も考えられないくらいでした。3Kとは『きつい・汚い・危険』の頭文字です。
筆者は建設現場で働く高校新卒でしたので作業服を着て肉体労働をしていました。3Kだと考える事はありませんでしたが、周囲からは3K職場だと見られていたかもしれません。
21世紀に入ると『ブラック企業』という言葉が定着し帰れない、休暇がとれない、厳しいなどが『K』に加わるようになりました。
いずれにしても『3K』職場は敬遠されがちで、特に世代人口が減って就職しやすい状況下においては、わざわざ3K職場を選ぶ必要性もなくなってきています。
K=給料
3Kの話題で近年の大きな話題は『給料』です。
保育士が、保育士免許の必要な職場で働いている率は5割未満という情報があります。
介護施設等で働く人材の離職が課題となっています。
いずれの職場も肉体的にキツイ職場であり、人間を相手にする仕事ゆえに精神的にキツイ職場でもあります。比較的狭い空間で仕事をするので人間関係にもキツさを感じる人が居ます。
その上、給料が安い事が課題となっています。
誰にでも出来るから安いのか?
保育も介護も、自分の家族に限定すれば、誰にでもできることではあります。
その質を担保することは無理でも、ある時間、対象者の面倒を見るということはできてしまいます。
こうした『誰にでもできる』と思われがちな仕事には、充分な対価が支払われない傾向があります。
とくに福祉分野ではこうした傾向が強いです。
福祉を利用しやすいものにするためには費用負担を低減する必要がありますが、福祉サービス提供者が無理をしていては破綻する可能性があります。
現に『待機児童』問題は、園の施設数や定員について議論が交わされますが、潜在保育士が復職し、または起業しやすい環境が整えば解消できる問題ではないかと思います。
生業として福祉サービスを成り立たせるには『誰にでもできる』がやりたくない仕事を代行するか、真似できないレベルでサービスを提供するか、という2つ方法が考えられます。
例えが良いかわかりませんが、高級料亭の弁当が売られる一方で、家庭の味という雰囲気の弁当も売られています。どちらにもニーズがあるということです。
3Kナース
看護師の仕事も『3K』と言われる事が多々あります。
確かにラクな仕事ではありません。
看護師にも潜在人材が居り、77万人という推計値があります。64歳以下の生産年齢でこの数ですので、もう少し幅を広げれば80万人以上の潜在看護師が存在すると思われます。
乳幼児を抱えながら血液やウイルス等の感染源と隣り合わせの仕事をしたくないと考えるのは仕方ないと思います。
患者≒弱者ゆえに、様々な世話が必要になることがありますが、腰を痛めた看護師が人の動作を介助するのは大変な作業だと思います。
看護現場のすべてが3Kではありませんが、3Kだと感じてしまう人が居ても仕方ないお仕事をなさっています。
医療・福祉の人材枯渇
職場環境という視点だけでも医療や福祉の人材枯渇が危ぶまれます。『看護師になりたい』という学生が減れば、看護師免許を取得する人が減ってしまうので、いずれ現場が破綻します。
さらに団塊世代が全員75歳以上になる2025年は目の前、団塊ジュニアが65歳以上になるのもすぐ、高齢化率が30%を超えて医療や福祉のサービス需要が増えることは自明です。
現在のサービスをそのまま続けるには、看護師を300万人に増やす必要があるという意見も聴かれますが、現在の看護師免許の新規合格者は5万人台、これを年10万人に増やしても途中で看護職から離れる人を減らさない限りは300万人は夢の数字でしかありません。
そもそも年10万人ということは、10人に1人が看護師になるということです。職業選択の自由がある中で、10人に1人が看護師を目指すというのも無理がありそうです。
効率化・合理化
看護師の総数増は現実的ではないので多様な施策が必要になります。
まずは医療・福祉サービスを受ける側の意識改革が必要でしょう。何もかも頼るのではなく、プロでなければできない部分だけを頼むようにしなければならないと思います。
日本の産業界が総力を挙げれば業務効率化や合理化は進むと考えられます。並行して規制緩和なども実施されるべきだと思います。
例えば患者がトイレに行くというシーンには様々な不合理があります。
健常者であれば尿意を催せば自分の意思でトイレに向かい、自分で用を足して後処理をし、どこも汚す事なく、ケガをすることもなく戻って来れると思います。
患者の中にはトイレの往復の歩行中に転倒してしまう人が居ます。便座に座れるが、立てない人が居ます。上手く拭けず汚してしまう人が居ます。
こうした人たちに常時付き添うことはできませんが、必要なときに手を貸すことが看護や介護の現場で行われています。それが面倒だからとオムツを履かせてしまっては人間の尊厳を損なうことになりますので、現場が努力しています。
こうした小さな点を見ても、仮に対象者が100万人、1日5回のトイレで3分ずつスタッフが対応しているとすると100万×5×3=1,500万分、25万時間です。
単純計算ですが、8時間で割れば3万人分の労力です。
リスクマネジメント(1)医療機関
医療は人件費率5割超にもなる人材に依存した産業です。
ゆえに人材枯渇は脅威になります。
まずは医療全体を『働きたい職場』というイメージを広げる事が不可欠です。
個々の医療機関では新卒採用に注力することは重要ですが、それにも増して離職防止に努めなければサービスの質低下にもつながります。
現役世代の離職防止はもちろん、定年後の再雇用にも対策が必要です。可能であれば定年制度を改めて、能力や希望に応じた働き方ができる制度に変えていくことが必要です。
おそらく、医療は時間管理の徹底により離職理由を1つ減らすことが出来るのではないかと考えます。
定時始業・定時退勤できる職場を作ることで、ワークライフバランスの健全化に寄与すると考えます。
医師や看護師は夜勤者が居なければ成り立ちませんが、働き方の柔軟性がこの課題の解消にも寄与すると考えます。
医療従事者を本業とはしたいが、病院勤務だけではなく飲食店の仕事もしたいという人も居ます。
夜勤専門の看護師をしながら、昼間は患者向けのカフェを経営したいという人が居た時、その夢を実現できる職場環境があれば人材枯渇への対策になります。
医療はヒトが在ってのサービスですので、人材確保は重要なリスクマネジメントになります。
リスクマネジメント(2)福祉施設
高齢者、障害者、子供など福祉には大きなジャンルがありますが、いずれも人材不足が既に課題となっています。
少子高齢社会、男女共同参画、バリアフリーなど社会の変化は受けつつも完全な適応とまでは至っていない部分があります。
やりづらさもある中で人材を集め、定着させ、また業界内で回遊させていく事ができなければ福祉業界の質低下は避けられません。善意や使命感だけでは破綻する恐れがあります。
看護師などの医療免許を持つ人材は医療から離れず、福祉業界に来ることは少ないと思いますので、福祉業界での人材登用や育成が必要になります。
医療は非常に多くの学会や研究会が存在し、研究熱心な人材も多く居ます。その成果として治療法や検査法が開発されたり、医療費低減につながる発見が共有されたりしています。
福祉、特に高齢者福祉の従業者数が増えるにつれて、従業者のコミュニティも発展や拡大が期待されます。SNSが発達し課題を共有する術は身に付けましたが、解決策の評価を受けて社会的なコンセンサスを得て行くには学会等の組織が必要になります。優秀な人材を福祉業界に引き留めるためにも、こうしたプラットフォーム的なものの整備は業界の急務ではないかと考えます。
施設単体で考えると、やはり働きやすさが重要になります。
施設の目標や目的がぼやけていては従業員も方向性を見失いますので『ウチはここだけは負けない』『○○な人は断らない』といったポリシーが見えると、働くモチベーションにつながると思います。
筆者はある組織の立て直しをしたことがあります。
そのときは組織のビジョンを明確にし、ロードマップを見せ、いつまでの何を終わらせ、それによって何を得るのかということを組織全体で共有しました。反発する人も居ますが個々の意見を尊重しつつ、組織の成果を重要視し、成果が出たときには対価を得ることで関係者を満たしていきました。
わずか数か月で10万円以上の臨時ボーナスを支給できたことでモチベーションは一気に高まりました。
リスクマネジメントとして守りも重要ですが、攻めも必要だと思います。
リスクマネジメント(3)一般産業
医療や福祉は超高齢社会のインフラとして重要であり、今後の人材確保は激化すると予想されます。社会の求めですので政府も動くことが予想されます。
1学年100万人を切る時代が近く、その上で2割も医療福祉系に進めば残る人材は相対的にも絶対数的にも少なくなります。
DXの爆発的な普及によりIT人材には高値が付き、そこを目指す人材も増えるため、業界からの流出は避けられません。
人がすくなければ装置やソフトで補わなければ従来通りの商売はできなくなります。廃業を免れるためにはBCPが必要であり、リスクマネジメントが必要になります。
昨年、車検不正が行われ大問題となりましたが、整備士を目指す若者が減ったことが少なからず影響しています。
COVID-19と学び直し
COVID-19の流行拡大で観光業や飲食業から離脱する人が増えました。
海外では、雇用保険による休業補償を受けるためには職業訓練校に通うことを求めているケースもありました。
その背景には、業界自体が縮小してしまう可能性がある事と、急拡大する可能性がある産業の存在が挙げられます。
これまでの職種で培ってきた経験は無駄にする必要はありませんが、その職種で生きて行くことが難しい時代であれば転身を考えなければなりません。
見習いとしてとりあえず転職することも良いと思います。そこから得られる経験には代えがたいものがあります。
基礎から学び、必要であれば資格を取得することも有用です。
後発組となる訳ですから、その遅れを挽回できる何かがあると強みに変わります。
お金がかかるリスキリング
社会人の学び直しを『リスキリング』(reskilling)などと呼んでいますが、タダで学べることには限界があります。
企業としても社員教育の中にリスキリングを採り入れたいところですが、それが離職につながる可能性もあり躊躇しています。
DXについては、以前のWordやExcelの勉強とは違い、想像力も働かせることができるデジタル人材を育成しなければならず、継続的かつ意欲的な習得が必要になります。
筆者は人生の中で大きなリスキリングを経験しています。高卒で社会人を経て、交通事故で廃業となり、4年制大学に進学しました。おかげさまで今の立場がありますが、まったくの進路変更をした訳でしたので苦労が無い訳ではありません。
時代に逆行すべきか、先取りすべきか、流れに身を任せるか、人それぞれの考え方がありますが、COVID-19流行拡大により、業態変容は喫緊の課題となっています。
今こそ礎を
あらゆる業界で人材枯渇の危機が迫る中で、早めの対策を打たなければ、争奪する土俵にも上がれなくなります。
報酬面で好待遇にできるDX業界などは後手にまわってもどうにかなるかもしれませんが、報酬では見劣りする業界では何か魅力を磨き上げておかなえれば見向きもされなくなります。
業界としての針路が見え、自社としてのビジョンやロードマップが明確に描かれていれば、そこに共感する人材が集まって来る可能性があります。
可能性をゼロに近づけない努力が必要です。