燃料価格の高騰
沖縄電力の資料(P18)のグラフがわかりやすいですが、基準燃料価格が25,100円/kLとしているところ、その2倍を超える価格になってしまっているが、燃料調整の上限額が37,700円/kLとなっているため、それを超えた2万円以上の費用は電力会社の負担となっています。
原子力発電所が稼働していない、あるいは保有していないエリアでは燃料費高騰がそのまま経費にのしかかるため、経営への影響が甚大になっています。
電力各社の第1四半期の業績
【減益】北海道電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で9億円減少の127億円でした。
北海道電力:IR決算説明(2022年第1四半期)
北海道電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益・赤字】東北電力
第1四半期(4~6月)は5年ぶりの減収減益となり、経常利益は前年同期比で471億円減少の△286億円(損失)でした。
今年度(2022年度)の経常利益は2,000億円の赤字を見込むことも発表されています。
当然ながら、配当金は0円の予想です。
東北電力:2022年第1四半期 決算説明資料
東北電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益・赤字】東京電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で674億円減少の△489億円(損失)でした。
第1四半期の純利益(損益)は670億円の赤字でした。
東京電力:2022年第1四半期 決算説明資料
東京電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益】中部電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で163億円減少の322億円でした。
中部電力:2022年第1四半期 決算説明資料
中部電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益・赤字】北陸電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で177億円減少の△123億円(損失)でした。
第1四半期の純利益(損益)は92億円の赤字でした。
北陸電力:2022年第1四半期決算について
北陸電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益・赤字】関西電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で403億円減少の△171億円(損失)でした。
今年度(2022年度)の経常利益は1,000億円の赤字を見込むことも発表されています。
当然ながら、配当金は0円の予想です。
関西電力:2022年第1四半期 決算説明資料
関西電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益・赤字】中国電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で242億円減少の△291億円(損失)でした。
第1四半期の純利益(損益)は267億円の赤字でした。
中国電力:2022年第1四半期決算概況(補足データ付き)
中国電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【増益・黒字】四国電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で426億円増加の1,638億円でした。
第1四半期の純利益(損益)は22億円の黒字でした。
四国電力:2022年第1四半期決算 説明資料
四国電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益・赤字】九州電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比で713億円減少の△472億円(損失)でした。
第1四半期の純利益(損益)は348億円の赤字でした。
九州電力:2022年第1四半期決算について(投資家向けIR説明資料)
九州電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
【減益】沖縄電力
第1四半期(4~6月)の経常利益は沖縄電力単体で前年同期比で73億円減少の△90億円(損失)でした。
沖縄電力:2022年第1四半期 決算の概要
沖縄電力:2023年3月期 第1四半期決算短信(連結)
損益と原子力の関係
電気事業者で唯一黒字を出した四国電力は、決算報告の中でも伊方原子力発電所の寄与が述べられています。
他社が燃料費で苦戦を強いられた中で、四国電力も燃料費高騰が利益を圧迫しましたが、最終的に黒字になりました。
四国電力の今期の発電量は50%が火力、40%が原子力、10%が水力という結果でした。
稼働中の原子力発電所
現在稼働している原子力発電所は7基です。
- 関西電力大飯発電所3号機
- 関西電力大飯発電所4号機
- 関西電力高浜発電所3号機
- 四国電力伊方発電所3号機
- 九州電力玄海原子力発電所4号機
- 九州電力川内原子力発電所1号機
- 九州電力川内原子力発電所2号機
四国電力はこの1基で自社発電量の40%をまかなったことが黒字の要因となりました。
関西電力や九州電力も発電量に占める割合が伸びれば、経営状態の改善につながるのかもしれません。
電力会社は赤字で良い?
電力会社は民間企業ですので、赤字だったり黒字だったりということがあります。
電力は自由競争が促進されたことで『新電力』と呼ばれる勢力が続々と誕生しましたが、燃料費高騰や為替レートの変動などで次々と撤退しています。
すなわち、経営状態が悪くなれば、電力の供給自体が停止する可能性があるということになります。
ここ数か月、月初に新電力の話題が掲載されている日本経済新聞ですが、いずれの記事も事業縮小や撤退の話題です。
【参考】日本経済新聞:電源なき新電力の誤算 市場変貌、崩れた価格競争の前提(2022年8月1日)
【参考】日本経済新聞:出光やENEOS、電力の法人新規契約停止 需給安定急務に(2022年7月1日)
【参考】日本経済新聞:広島・廿日市市、新電力破綻で補正予算 電気代2倍に(2022年6月1日)
【参考】日本経済新聞:電力難民、あわや経済産業省も 問われる安全網(2022年5月2日)
供給源が無ければ需要家には届かない
ガソリンスタンドにガソリンが無ければ給油ができないのと同じように、電力会社に電気が無ければ電力を買う事ができません。
電力会社自体が消滅してしまっても同じことです。
『あそこにGSがあったはず』という場所に無くなっていて、車がガス欠になれば、そこから車は動けません。
ただし、車はレッカー車で移動ができますし、ガソリンをどこかから運んで来れば動かすことができます。
電力の場合、住宅や店舗など身動きが取れない建物です。
電力供給が止まったからといって簡単には電力を調達できません。
新電力と呼ばれる事業者の中には、発電能力ゼロの企業もあります。
電気を仕入れて売るという商社のため、仕入れることができなくなれば、売る電力が無くなるということになります。
電力は乗換が困難
昔からある電力会社から、新電力への乗り換えは簡単だったと思います。
特に工事などはなく、書類を書くだけで乗換可能でした。
顧客の流出した電力会社では何が起こるかと言うと、発電能力の低下です。従来の発電量を100としたとき、顧客が1割減れば設備も1割減らすことができます。
流出が微々たるものであったときは発電設備を減らす必要もありませんでしたが、流出量が大きくなったときに、発電機が故障したとすれば、それを修理する必要性がなくなっているので、その発電機は廃止になります。
発電力が100⇒90になった電力会社に、昔のような100の電気を売る力はないので、契約を申し込まれても断られて当然です。
赤字でも耐えている電力各社
昔からある電力会社が軒並み赤字を発表した2022年7月末、それを称賛する声は聴かれませんでしたが、批判する声も無かったように思います。
各企業は民間ですので損益で事業を見直すこともできますが、規制産業の中で、しかも社会インフラを扱っている企業であるがゆえに、簡単には撤退はしません。
今回の赤字は誰が負担すべきか
受益者負担が原則の自由市場ですので、電気を消費する人が負担するのが筋だと思います。
ただし、それが払えない人が現れた時にどうするかも考えておく必要があります。
ギリギリの生活をしている家庭で、電気代が4~5倍になっても大丈夫かと言うと、相当に厳しいと思います。
5千円が2万円になったから、貯金を崩すとしても何カ月もつかわからず、仕方がないので食費を削るということになるかもしれません。
今夏、尋常ではない猛暑が到来しましたが、エアコンをつけられない家庭が増えると、熱中症リスクが高まります。
燃料費高騰による電力製造原価の高騰が一時的であれば、国が蓄えていた資金を投入する時期なのだと思います。
今後、高いまま維持されるのであれば、電力は高いものだという認識を持つ必要があり、一層の節電につとめる必要があるかもしれません。
自動販売機が無くなる?
電気代高騰で不採算となる可能性がある自動販売機は、そろそろ撤退を考えているオーナーも居ると思います。
1カ月の利益が3万円、電気代は自己負担で6~8千円、おおよその利益が2万円という事業モデルがあったとします。
冬のホットコーヒーが売れる時期に、ヒーターの電力が3万円かかると、コーヒーが平年並みに売れてもプラスマイナスゼロです。
コーヒー自体が値上がりしているので、仕入れで1缶10円の値上がりがあったとき、販売価格も10円値上げしても良いですが、他の自販機が値上げをしなければ、おそらく売上はダウンします。
よほどの好立地であれば値上げにも負けずの売上だと思いますが、価格勝負的な立地の場合は、そもそもの黒字化できるポイントが無くなるのであれば、自販機を設置しておく意味がなくなります。
あらゆる所にメーター?
昔、コイン式のガスメーターなどが存在していました。
コインを入れると一定量までガスが使えるというものです。
あまりに電力が高騰すると、あらゆる場所にメーターが付けられて使用した分だけ支払うことになるかもしれません。
例えば病院のベッドサイドにあるテレビや冷蔵庫はプリペイドカードで支払っていますが、治療のための電力も別料金にしないと病院が赤字になる、という事態が起こるかもしれません。
エレベーターやエスカレーターも、1回10円ということがあるかもしれません。
飲食店で出て来る冷たい水や温かいお茶も、今まではタダでしたが『常温ならタダ』という事になるかもしれません。
飲用の水に付加価値分の対価を払う文化が定着したように、電気についても付加価値が高まれば対価を払うことが当然になるかもしれません。
究極的に節電を試みる
停電が起これば、そもそも電気は使えません。
そう考えると、少しでも電力が使えるということの価値がわかりやすくなると思います。
家庭内にあるあらゆる電化製品をオフにしてみて、どうしても必要なものだけオンにする。
すると、自宅でどれだけの電力があれば最低限の生活ができるかわかると思います。
たぶん、冷凍冷蔵庫は常時電源供給が必要になると思います。
その中身を見直して、節電に取り組む事はできると思います。
給湯機は、入力時だけ電源を供給すれば夏場は用が足りるかもしれません。
掃除機は、充電式を使って充電する時間帯を考えるようにすると良いかもしれません。
例えば、洗濯機を使い終わったら掃除機を充電する。なので洗濯機が動いている間に掃除をしてしまう、といった具合に生活のリズムも電力中心にしてみるのも良いかもしれません。